去年と同じ場所に置く(v17・1話20コマ)
オレンジの縦線はモノローグ(吹き出しではなく、コマに直接置く心の声)です。
実作(岸田國士)67点
この台本 66点
合格線 85点
1
起1・絵だけ
(セリフなし)
夜の施設長室の引き絵。机に書類の山が3つ。手前はケース記録の綴り。壁際のスチール棚に入居者ファイル。机の隅にナースコールの子機。窓の外は暗い。大村は右端でコートを腕にかけて立ち止まっている。
2
起2・同じ構図①
決めるのは帰りの車。忘れるのは朝
施設長室の窓と机を正面から。大村は机の向こうに座り、両手を机に置く。外は真っ暗で、ガラスに顔がはっきり映っている。机の上に封の切られていない茶封筒の束。※この画角と姿勢をコマ11・19で完全に繰り返す。
3
起3・諦めの証拠
あー 電気ついてたんで
今日はもう上がるんだ
上がるって 毎日聞いてます
大村が棚から空のバインダーを出し、去年と同じ位置に置いている。その手が棚の奥の古い薄い冊子に伸びかけ、背に触れた所で止まり、引き戻される。戸口に三上が立っている。
4
起4・リフレインの前半
一枚だけ 見てもらえませんか
そこ置いといて
三上が紙を1枚差し出している。大村は受け取らず、口元だけで笑って視線を書類に戻す。
5
起5
置くと 読まないですよね
夜勤の人が 困るんですけど
実地指導で困るのは 私なんだ
はい
三上を主任にしたのは私だ
三上が紙を下ろす。大村は書類に目を落としたまま。2人の間に机があり、距離が離れて見える構図。
6
承6・自力解決の失敗
本部に上げれば本部の話だ。私が決めた話じゃなくなるんだ
深夜。大村が一人でノートパソコンを開き、片手でケース記録の綴りを押さえている。画面の中身は描かない。
7
承7・第2のフック=最大離脱点
(セリフなし)
大村の手の寄り。指はキーに触れ、数文字打った所で止まっている。視線は開いたケース記録に落ちている。※自分の判断で止めた顔にする。無知ゆえに止まったようには描かない。
8
承8・絵だけ
(セリフなし)
大村が静かにノートパソコンを閉じる。手元だけの寄り。
9
承9
若い頃は断られる側だった
大村が椅子の背に体を預け、天井を見ている。引き絵。
10
承10・絵だけ
(セリフなし)
夜の職員室。手前で三上が紙の記録を手で書き写している。奥の廊下側のガラス越しに施設長室の明かりが点いていて、大村の座っている影が見える。※どちらも遅くまで残っている画にする。
11
転11・同じ構図②
夜分にすみません
大村です 知恵を借りたい
コマ2と完全に同じ画角・同じ姿勢。外は真っ暗のまま。机の上の茶封筒もコマ2とまったく同じ量。変わるのはガラスの映り込みだけ=顔が半分だけ映る。大村は受話器を耳に当てている。※まだ何も始まっていないので成果の印を置かない。
12
転12・同業の施設長①
うちなんか 高いの入れましてね
そうか
気がついたら 全員紙に戻っててね 誰も悪いと 思ってないでしょ
で どうしたんだ
別の施設の応接。同業の施設長(60代・男性)が自分の机のほうを顎で指しながら話している。大村は聞き役。※売り文句ではなく、自分の失敗から入る。
13
転13・商品名は第三者の口から
出前講座ってのが来て 置いてっただけ
講座
同じ応接。同業の施設長が机の引き出しを開けて、中から1冊取り出して見せている。引き出しにはまだ物が入っている。大村が覗き込む。※ここで初めて商品名が出る。言うのは売り手ではなく同じ立場の人。
14
転14・自分で決める一拍・絵だけ
去年もここまでは来ていた
施設長室。大村が一人で受話器を取り上げる手の寄り。顔は入れない。誰にも相談していないことが分かる画。
15
転15・サンの初登場
施設長 先に聞かせて ください いま一番手が 止まる紙のこと
どれって言われてもな
決めるのは そっちで結構
施設長室。サンがソファに浅く腰かけ、問いかけている。テーブルの上には何も置かない(資料もパンフレットも名刺も出さない)。オレンジのトートは足元に1つ。
16
転16・使ってみてつまずいた/今も残る
音声で入れてます 利用者さんの言葉 拾ってくれないんで
なるほど 拾わないんだな
そこだけ 手で直してます
三上が残ってるのは私のせいじゃないか
職員室。三上がノートパソコンの前で眉を寄せている。その横に大村が立って手元を覗き込んでいる(「なるほど」は大村の声)。机の端に手つかずの紙の束がまだ残っている。※終わった話ではなく、今も起きているつまずきとして描く。
17
転17
直したやつです
残りは明日 やります
助かった
夕方の職員室。三上が大村に紙を渡している。大村は立ったまま受け取り、目を落としている。縦に長いコマ。
18
転18・転換点=全長の90%。20コマでいちばん大きいコマ
もう一枚 いいですかね
置かなくていい 見るから
えっ
三上がもう1枚差し出している。大村が手を伸ばして受け取る。2人の距離が近い。※コマ4とまったく同じ差し出し方にして、今度は受け取る。物語の芯はここ=一度引っ込めた提案が戻ってくる瞬間。
19
結19・同じ構図③
明日も来る。たぶん同じ顔で
コマ2・11と完全に同じ画角・同じ姿勢。外は明るい。ガラスに顔は映っていない。机の上の茶封筒は無いが、紙の束が1つだけ残っている(コマ16で残った分)。※全部片付いた形にしない。
20
結20・絵だけ=最終コマ
(セリフなし)
施設長室の戸口。大村の後ろ姿と明るい廊下。奥に三上が歩いていく後ろ姿。セリフなし・数字なし・効果なし・商品名なし。※会釈させない(感謝の身ぶりは成果の言い換えになる)。
4人の口調
- 大村(58・施設長・主人公) 決裁する側の言葉。命じない・頼まない・独り言が多い。①常体の『〜んだ/〜んだな』で理由を自分の側に引き受ける(今日はもう上がるんだ/実地指導で困るのは私なんだ/拾わないんだな)②断りと先送りは否定でなく順番の『〜といて』(そこ置いといて)③受けるのは一語だけ(そうか/助かった/なるほど)。一人称は『私』。モノローグは7個すべて大村=独り言が多い人物。敬語は外部(同業・サン)にだけ出る。
- 三上(32・介護主任) 現場から上げる側の言葉。敬語だが砕ける。①理由を『〜んで/〜んですけど』で後ろに付ける(電気ついてたんで/困るんですけど/拾ってくれないんで)②押すときは確認の形『〜ますよね/ですかね』(毎日聞いてます/読まないですよね/いいですかね)③自分の不満を現場の主語に載せる(夜勤の人が困る)。言い切りは避け、最後まで敬語を崩さない。
- サン(45・外部のコンサル・コマ15の1場面だけ) 問うだけ。売り込まない。①頼む形の『先に聞かせてください』②引き受けない形の『〜で結構』(決めるのはそっちで結構)③問いを体言で止めて答えを急かさない(止まる紙のこと)。『御社』『DX』のような業者の音は使わない。大村を『施設長』と呼ぶのはこの人だけ。
- 同業の施設長(60代・コマ12〜13の1場面だけ) 大村より砕けていて、自分の失敗を笑って話す。①自嘲の入り『うちなんか』②同意を取る『〜でしょ』③丁寧なのに崩れる『〜ましてね/〜ってのが来て』。大村の常体と並べると声が分かれる。
いま実作に届いていないところ
- 説明のセリフが無い(5点/実作9点) 岸田の場面は夫婦の押し問答と遊びだけで、状況を言葉にした行が一行もありません。うちはまだ、絵で見えることと絵で見せることを言葉で先渡ししています。
- 書き手の癖(5点/実作8点) 4人に別々の口調を与えましたが、徹底しきれていません。
- 喋り言葉(7点/実作9点)/追える(5点/実作7点)
採点=3役(セリフの質/内面と感情移入/人物と会話)が互いの点を見ずに採点し、合計は機械が足す。書いた本人は採点に加われない。
本文に数字を書いていないのは、顧問先の実測がまだ1件も無いため(消費者庁 打消し表示に関する留意点 2018-06-07)。
採点表=セリフ・感情移入の10並列リサーチ3,619行から作成。岸田國士『紙風船』を同じ表にかけて物差しを検証済み。